お役立ち情報|伝承力 ②

伝承力

第2回 経験の知を伝えるしくみが必要だ

若い人がうまく育たないのだが、どうしたらいいのか。 個別業務はこなせるのだが、全体を捉えられない。本人に任せてやらせているのだが、中々期待するレベルに上がってこない。

マネージャー研修で受講者の皆さんに困っていることを聞くと、後進若手の育成に関わるこうした悩みが多く出てきます。 どうしたらいいのかと、途方に暮れているような状態が、昨今特に増えてきている印象があります。

21世紀に入り、“ショーワ”の“たて社会的”人材育成が修正を迫られ、多くの企業ではそれに代わる育成術として“ティーチング&コーチング”等が試みられてきました。合理的に教え、より主体性を重視する方向です。それら修正案は、昨今の社会構造の変化にもマッチして、かなりの程度有効に機能したと言っていいでしょう。 

ところが一方で、20世紀の“たて社会的”組織下で当たり前に為されていた、先輩諸氏の「経験の知」の伝承は、殆どされなくなってしまいました。「経験の知」が伝承されないことは、社員の仮説構築力の水準を低下させ、ひいては日本企業の事業展開力自体を低下させかねないと、私は大きな危惧を抱いています。

「経験の知」が伝承されないことのマイナス面は見えにくいところですが、これは企業が何かに取り組む際に立てる“仮説”の精度に関わっているものです。私たちが何かを始めようとする際に、その思考の基盤に身近な上司や先輩の経験知がデータベースとして入っているかどうかは、仮説の精度に決定的に影響してくるからです。

冒頭にあげた“全体が見えない”、“期待したレベルに上がってこない”などの問題の多くは、自分でリアリティーの高い仮設をイメージできないことに起因しています。 そして、自ら描いた仮説で行動していくのでない限り、彼(女)らの成長の速度が鈍化してしまうのは、避けようのないことです。

“たて社会”的制度が組織の当たり前だった時代は、上下関係の息苦しさはあったけれども、先輩の知を自然に身体化し、それらを空気のように活用できた点では、恵まれた時代でした。昨今の若手の多くは、上司や先輩の経験知に触れる機会が乏しいまま現場に押し出され、作業者レベルからいきなり“仮説構築”を迫られるしんどい状況に置かれています。そのギャップを自ら克服する術もなく、しばしば、その状態を理解してくれる周囲もいない状況があります。

精度の高い仮説は、身近な上司や先輩が語る組織像や人間観、ルールや規範の捉え方、悩み迷った中での思考や選択のストーリー等を基盤に導かれるものです。限られた直接の経験とメディア等の間接的な情報に頼る仮説で、高い精度の仮説を生むことは、現実に極めて難しいことです。

21世紀の組織には、20世紀とは異なる形で組織が持つ経験の知を有効に活かしていく仕組みが求められています。世代間ギャップを克服し、忙しい若手社員たちが日常のやり取りの中で先輩らの“経験の知”を吸収し、成長していけるしくみづくりが必要です。そしてその実現が組織を活性化していくだろうことは、多くの人が感覚的に良く知っていることだと思います。