お役立ち情報|伝承力 ③

伝承力

第3回 知の性格によって異なる伝承の技法

リーダーやベテランの熟練の知(仕事の知)を、若手や後進に継いでもらいたい。組織の知的資産を活かして、差別化された価値を創造できる次世代リーダーを育成したい。そんな願望を抱いて日々試行錯誤を繰り返している企業は、少なくありません。 よくあるパターンは身近に参照可能な実践に倣い、そこでの方法を適用するケースです。うまくいけばよいのですが、成功確率は高くありません。同じ方法で伝えても、知の性格が違うと必ずしもうまくいかないからです。

仕事の中には技術革新やグローバルな変化の影響を日々受け、作業のプロセスや仕事の内容自体が頻繁に変わっていくものがあります。一方で、それら外部変化の影響をあまり受けないか、または外部の影響をかなりの程度コントロールして、作業内容の変化を最小限に抑えながら成り立っている領域もあります。

後者は伝統芸能の世界などで主に見られるもので、今日でも師弟関係を通じた伝承が行われています。 ただ、それらの世界で成立する“師弟関係”の伝承術を、日々変化が大きいゲーム業界の上司-部下関係に適用させても、うまくいく可能性は殆ど無いでしょう。両者が扱っている知(仕事の知)の性格が、大きく異なっているからです。

伝承の問題を考える際は、その仕事に求められる知(ここでの知は“技”も含んでいます)の性格を捉え、それぞれに適した方法を採用していくことが大切になります。伝統芸能の世界なら師のワザを模倣し、基本にある“型”の習得を繰り返すのが熟達への近道です。一方で、技術革新等で頻繁に変化が起こる領域であれば、手続きやノウハウは最小限のものを教え、あとは知識を管理する手法やキーとなる情報源を示して本人に委ねる方が育成に効果的です。

さらに、日常的に技術革新やグローバル化の変化に晒されながら、組織機能を繋げて成果を出さなければならないプロジェクト管理やマネジメントの世界では、テクニカルな知の他に社会構造や組織の力学、文化の影響などを含んだ、より複雑でダイナミックな知が含まれます。こうなると伝承も一筋縄ではいかなくなり、「語り」の技を磨いたり、適切に「関わる」為のいくつかの技法を組み合わせていく必要が出てきます。  

変化への適応が必須の組織が21世紀社会で生き残る為には、上に紹介した様な複雑でダイナミックな状況に適応しうる伝承の実践者を社内に育成することが求められてきます。その育成の労を惜しみ、多様にある仕事の知の性格に注意を向けず、十羽ひとからげに“伝承”を進めていけば、膨大な時間とエネルギー、そして時に人材を失うリスクを背負うことになりかねません。このことは、十分に意識しておく必要があります。