お役立ち情報|ITエンジニアのための交渉エッセンス ②

ITエンジニアのための交渉エッセンス

第2回 交渉の型を身に付けよう

前回は、交渉の原理原則と交渉の型を覚えることについて触れた。現実社会において交渉は重要なスキルなのであり、実践で鍛える部分が大半である。そ ういう意味では筆者も含め、ほとんどの人は自己流と言える。ただ自己流は、特定の相手や状況で鍛えられるため、それらが変わったときに上手く対応できなく なるリスクもある。だからこそ、ベースになる型を押さえておく必要があるのだ。

CNP(Collaborative Negotiation Process )協創的交渉プロセスでは、交渉を4つのフェーズに分け、進め方を型として紹介している。4つのフェーズとは、「理解」「協働」「創出」「合意」である。 自分が交渉の中でやっていることを、この4つのフェーズに当てはめてながら、読み進めてほしい。今回は、「理解」と「協働」について解説する。

まずは相手との違いを確認する

理解フェーズとは、交渉の最初のセットアップから交渉の本題を切り出し、お互いの違いを認識するフェーズである。このフェーズで意識すべきことは3つある。

ひとつは交渉を始める前のセットアップ。交渉はテーブルに着いて話をする前からすでに始まっている。どこで行うのか、誰が出るのか、どういう資料 が必要なのかといったことから、相手に自分をどう印象づけたいか、どういう雰囲気で進めたいのかなどを考えておく必要がある。実はこうしたセットアップ は、思っている以上に交渉に影響を及ぼす。WIN-WINの交渉をしようとするならば、お互いに安心して本音で話せる環境づくりを心がける必要がある。

できれば、最初の時点で交渉の目的(この話し合いのゴールイメージ)、時間、進め方などを軽く相手と合意しておくとよい。通常、交渉は立場が強い 方が話の主導権を握りがちなため、相手の都合の良いように話を進められてしまうリスクがある。最初に相手と合意し予防線を張っておくことも必要なのであ る。

2つめは、本題を切り出し、要求を最初に相手に伝えること。ありがちな例として、心理的に言い出しにくい要求を、最後に言うはめになってしまうこ とがある。原因は、理由や経緯の説明に多くの時間を割いてしまう傾向にあるからだ。しかし思い出してほしい。大切なのは、何を要求したいのかを明確に相手 に伝えることであるということを。

そして3つめにやることは、しっかり相手の話を聴くということである。特に相手がこちらの要求に対して抵抗する、あるいは感情的になっている場合 は、相手に言いたいことを言ってもらい、相手の反論を整理していく。そして感情的なわだかまりを聴くことでそれを少なくしていく。この「しっかり聴く」こ とは、思った以上に難しい。なぜなら、聴くということをする以前に質問や主張、反論に入ってしまいがちだからである。覚えておいてほしいのは、「感情的な わだかまりが高いまま交渉を進めてもWIN-WINにはなりにくい」ということだ。

“落としどころ”ではなく“上げどころ”を見つける

協働フェーズは、お互いの主張を基に、さらに相手の意図や目的をさぐり、そして同じゴールを設定するフェーズである。敵と交渉するのと味方と交渉 するのでは、どちらが楽かは言うまでもない。WIN-WINを目指すのであれば、相手からの自分の位置づけは、敵ではなく仲間や味方という位置づけにして いく必要がある。そのためには、共通のゴール設定が必須である。

共通のゴール設定とは、同じ目的や同じ方向性を共有することでもある。よく“落としどころ”という言葉が使われるが、ここでやるべきことは落とすのではなく上げること。新たな共通認識を創り出し、2者間の上に新たなゴールを掲げるのだ。このフェーズで実際に行うことは相手の腹を探ることである。「相手の目的は何か?」「何が本音なのか?」「こちらに何を望んでいるのか?」「 どこまで譲歩できるのか」…。そしてやるべきことは、相手の望みを引き出すこと。この時点でやってしまいがちなこととして、“こちらの確認したいことだけ 質問してしまう”ということがある。こちら都合の落としどころを探っていくために相手に質問するのだが、相手が何を望んでいるのかについてはまったく引き 出さないということが起こる。そうなると、こちらからの提案がまったく受け入れられないということにもなりかねない。

さらに付け加えると、この時点では“こだわらない”“いろいろ方向から可能性をさぐる”という柔軟性も必要だ。交渉していくと、こちらの想定して いたことと違うこともあったりする。納期は考慮してくれると思っていたのに厳守という回答だったり、工数増をお願いしたら追加費用は一切認めないなど。

しつこく可能性を迫ることも大切であるが、一方で、他の可能性はないかと探っていくための柔軟な発想が必要である。たとえば、費用がダメなら機能やリソースの配分で代替が可能かどうか…など。そのためにも、事前の準備や相手の望みを確認しておくことが大切になる。

次回(最後)は残りの二つのフェーズを紹介する。

ITエンジニアのための交渉エッセンス

オイコスメンターの大坪隆志が、システムエンジニアの皆様に向けておくるコラムです。

大坪隆志
大坪 隆志 (おおつぼ・たかし) オイコス メンター
筑波大学社会工学類卒業後、1987年、株式会社資生堂に勤務。情報システム部でシステムエンジニアとして9年間の経験。その間に企画、開発、運用、教育 など幅広い経験を積む。社内選抜で慶応大学大学院へ派遣され人事・組織論を学ぶ。(修士号取得)その後、国際事業本部で経営企画業務にたずさわる。 2001年システムコンサルタント、人事組織コンサルタントとして独立。あわせて、コーチングのプロコーチとして活躍。 2003年よりオイコスにて講師(メンター)として活躍中。 日本コーチ協会 東京チャプター幹事

▷ 第一回「交渉力の原理原則と型を身に付けよう」
▷ 第二回「交渉の型を身に付けよう」
▷ 第三回 交渉の心構えとは

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