お役立ち情報|コンフリクトマネジメント・チームマネジメント コラム ③

コンフリクトマネジメント・チームマネジメント コラム

コラム3
「顔のないコミュニケーション」

「いっしょにお仕事をする人をどのくらい知っていますか?」という質問を受けたとき、読者のみなさんはどうお答えになるだろうか。私の場合、性格や価値観まである程度は理解しているといいたいところだが、最近は「声と顔は知っている」という答えさえも難しいと感じることが増えてきた。最近はEメールの普及で、顔や声すら知らない人も少なくないからだ。私の場合、海外からの仕事の依頼がメールで届き、打ち合わせ、契約の交渉、契約の合意までEメールで行うことも増えてきた。テクノロジーの進歩、仕事の効率化といっても、対面のないコミュニケーションは正直言って不安である。

コミュニケーション論では実際の言語のやりとりだけでなく、言葉以外の視覚情報、聴覚情報、場の流れのすべてから意味のやりとりをしているといわれているが、Eメールのコミュニケーションはまさに「言語」だけのやり取りである。「レポートを早く提出してください」と書かれていても、表情や声の調子がないため相手の感情が読み取れない。だから携帯メールでは顔文字などが多用されるのである。

欧米系の方からいただくビジネス関連のEメールで、ギョッとした例のいくつかを述べてみよう。

①いきなりファースト・ネームで書かれる。会ってもいない人に「Dear Yuka」と呼びかけられて、相手は親密なつもりだろうが、私は「お前とそんな関係結んだつもりはない」と思ってしまう。この場合、私は自分にとって相手との親密性が感じられるまで、相手に敬称をつけて呼ぶ。とりあえず、丁寧なことは相手を尊重していることだし、その一方で、私はあなたと同じ文化ではないことを言外に主張しておく。

②仕事内容と条件(お金)の提示は最初の段階にくる。日本の場合、仕事内容は説明されても金額提示があいまいで困るのだが、この点はうれしい「ギョッ」である。人間関係の対等性を感じさせる。しかも、条件に関して質問を投げかけると、それに応じて金額を支払ってくれることが多い。

③形式的なあいさつ文はなく、ほとんど仕事内容のみの用件の内容である。「いつもお世話になっています」というような日本のビジネスEメールの常套句が実は自分と相手の関係を確認する暖かいクッションのようなものだったことを再認識した。しかし、Eメールのやりとりで人間関係が見えないので不安な気持ちがいつもある。

グローバルな仕事で世界各国のエージェントに仕事の依頼をするときEメールは時差にもとらわれない便利なツールである。しかし、人間関係は非常に希薄である。そのため、欧米系の方はフォローアップとして、電話をよく用いている。仕事での採用を決めるときはだいたい三〇分程度、電話面接が行われる。そのときの質疑応答や意見交換の流れで採用担当者は私の能力やユーモアを見ているようだ。顔が見えなく機関銃のようなスピードで語られるときもあるが、そんなときは必ず「話すスピードを落としてくれると理解しやすいです」と伝えるようにしている。私の心には「あなたが日本語が話せないから、私が英語を使ってあげている。だからもう少し協力して」という気持ちがある。教養のあるビジネス・パーソンなら人間の対等性を考えて、「ありがとう。Yuka」といってスピードを落としてくれる。仕事の詳細やお互いの調整が必要な問題についても必ず電話を用いる。誤解をされては困ること、お互い意味を共通にしておくべきことはやはり話し合いのプロセスが必要であると考えているようだ。電話の会話は即興的なので、ビジネス以外の雑談もでやすいが、その雑談が相手と私の関係を近づける。その後、Eメールの中でちょっとした私的なコメントも入れるようにしている。

重要なことはそれぞれの媒体の長所と限界を知って、他の媒体を補強的に使って意味のやりとりを充実させることである。そのとき必要なことは、こちら側から疑問点や要求ははっきりさせて相手の反応を待つことである。仕事以外のパーソナルなやりとりは人間関係を感じさせるものであり、信頼形成に寄与する。コンフリクトの回避を積極的にとらえるならば、いかにコミュニケーションの中身を濃くしていくかについてはコミュニケーションの目的を明確にした上で、コミュニケーションの媒体となるツールを選択していることに自覚的であるべきであろう。そして、顔の見えない関係だからこそ、どのように信頼を作り上げていくかを工夫していく必要がある。

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コンフリクトマネジメント・チームマネジメント コラム

弊社メンター 鈴木有香による、コンフリクトマネジメントに関するコラムです。

鈴木 有香 オイコス メンター

早稲田大学紛争交渉研究所客員研究員 異文化教育コンサルタント

▷ 1「ウィン/ウィンって何?国境紛争エキササイズ」
▷ 2「水戸黄門を超えて21世紀に求められる紛争解決スキル」
▷ 3「顔のないコミュニケーション」
▷ 4「ジブリッシュ: 演劇的手法によるコミュニケーション・トレーニング」

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