お役立ち情報|伝承力 ①

伝承力

第1回 ベテランの発揮場を生み出す
「語り」と「関わり」の技法

組織が蓄積してきた経験の知を後進世代や他領域に伝承し、どう新たな価値創出に結びつけるか。これは21世紀日本企業の死活を決めかねない程の大問題です。それは組織が価値を生むポテンシャルを高めるという一目的に留まらず、職場の風土や社員のモチベーションとも繋がる広範なテーマでもあります。

残念なことに、ベテランが持っている経験の知を活かし、新たな価値創出に結びつけている企業は、あまりに少ないと言わざるを得ません。歴史の長い企業であれば貴重な実践経験を持つベテランも大勢いるのに、その経験知の多くは死蔵され、挙句に大半を消失させているのが昨今の悲しい実態です。

日本を代表する電機メーカーの中には、ベテラン社員が後輩・若手の業務に介入することに制限を入れているところもあります。最近ある大手メーカーを退職した知人は、そんな昨今の風潮に大きな懸念を表明していました。制限を入れる理由はあるにせよ、それでは経験知の活用も知識の伝承も望みようがありません。全く残念な話です。

とはいえ、ベテランの側にこうした風潮を生み出している原因があることには、注意を向ける必要があります。組織はベテラン達が介入することのマイナス効果を危惧しているから制限をかけているのです。ベテランが口を出すことで現場が混乱したり、若い人に余計な負担をかけたり、それらが引き金になって人材が流出したりする事態を心配していることは、無視しえない現実です。

例えば以下のような傾向には、20代、30代の人たちから強い不満の声が上がっています。

1.自分(たち)が仕事に向けて持つ思いや信念を強調したがる。
2.話が長くまとまりがない。しばしば何が言いたいのか分からない。
3.懐古主義的な言葉‐当時は良く、今は問題‐としている認識が端々に出てくる。
4.苦労話、自慢話に繋がっていくことがある。

もちろん多くのベテラン達は、威張ったり自慢しようとしている訳ではありません。ですが実はだからこそ、そこに大きな問題があるのです。本人たちが無意識にしている言動や、当たり前に取っている行動そのものの中に、問題の種が入っているからです。

多世代が共同体の中で繋がっていたかつての日本では、“伝承”は日常のやりとりの中に自然に為されていたものでした。ですが世代間の仕事の捉え方も、組織と個人の結びつき方も大きく変わった今日においては、“伝承”に求められる要素を明確にして、それらを有効に機能せしめる“伝え方”の技を磨く必要が出てきています。経験の知の如く形になりにくい知を伝えたいのなら、なおさらそうした能力は求められます。

「伝承力」でお伝えする技法は、“伝える”が含む要素を分解した上で体系的なスキルとして再構築したものです。大きくは「語り」と「関わり」の2領域の技法からなっています。形式知になりにくい要素を、多様な「語り」の力で伝え、時間的、空間的に限られた共有領域を有効な“伝承”につなげる様々な「関わり」の技法をお伝えしていきます。

自身の発揮場をベテラン自らが切り開き、次世代につなげていく。ベテランの経験知が活かされ組織の力になっていく。その礎を拡大することこそが、今日本の組織に必要なことだと、私たちは考えています。