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ITエンジニアのキャリア開発のヒント

やる気を高める、メンバーの目が輝く
プロジェクトマネジメントのヒント

こんにちは。オイコスコラム編集部です。

今回のコラムでは、「やる気を高める、メンバーの目が輝く〜プロジェクトマネジメントのヒント」と題して、オムロンソフトウェア株式会社 代表取締役社長・竹林一さんにお話を伺いました。

「プロジェクトマネジメントの成功の鍵を握るのは"人"である」と考える竹林氏は、プロジェクトを成功に導く自立型の人材を育てるため、人のやる気(モチベーション)をアップさせるためのマネジメント手法を現場で実践されてきました。その取り組みについてご紹介します。

当コラムは、2008/7/31〜8/1に開催された「PM Conference2008」(主催:株式会社翔泳社)での講演を参考にしています。
http://www.pminfo.jp/conf/2008/speaker/index.html#2_1

<竹林 一氏(Hajime Takebayashi)プロフィール>
オムロンソフトウェア株式会社 代表取締役社長1981年、立石電気(現オムロン)株式会社入社。事業企画室にて非接触ICカードシステム、ATM後方支援システム等の新規事業化に従事。その後、駅務システム開発部にて国内・海外の駅務システムSE、スルットKANSAI、関東パスネット等、大規模システムを開発プロジェクトリーダーとして推進。新規事業開発部長、グーパス推進部長、セキュリティエンジニアリング部長、ICカード・モバイル皆さんのプロジェクトでのコミュニソリューション推進室長を経て2008年から現職。2005年〜経済産業省、総務省合同“情報家電ネットワーク化に関する検討会”構成委員2006年〜新エネルギー・産業技術総合開発機構 提案審査委員2008年〜モノづくり推進会議 ロボット研究会委員

著作に、『モバイルマーケティング進化論』(共著:日経BP企画)、『PMO構築事例・実践法』(共著:ソフト・リサーチ・センター)、『利益創造型プロジェクトへの三段階進化論』(日経ビズテック)、『THEエンジニアコーチング』(技術評論社「JAVA PRESS」連載)がある。

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プロジェクトマネジメント成功の鍵

竹林氏は、これまでのキャリアの中で、ソフトウェアマネジメント、プロジェクトマネジメント、ビジネスモデル開発、事業構造の改革を行ってきた。ソフトウェア開発では、見積もりや品質など、あらゆる問題が発生するが、これらが繰り返されると、どうしてもモチベーションが下がってくる。
その中でどうやってプロジェクトマネジメントを成功させるのか、考え続けた。

一つ分かったことは、確実にプロジェクトを成功させる方法はないが、何をやったら失敗するかには共通点があるということだった。それは「見ざる、聞かざる、言わざる。」これをプロジェクトの中でやると、必ず失敗することが分かった。

そういった経験から、竹林氏は「“見ざる、聞かざる、言わざる”のコミュニケーションのない組織に、モチベーションは生まれない。モチベーションが低い組織からは、イノベーション=新しいやり方や発想は生まれない」との考えに至る。

プロジェクトマネジメントのスタイルは、以下のような変遷をたどっている。

◆ 第1世代:目標達成型。目標を明確化して、成果物を獲得する。リーダー個人の力が大切になっていく。どれだけリーダーが関わるか。

◆ 第2世代:プロセス重視型。プロセス改革により、品質・コスト・時間を獲得する。システムが大きくなると、一人のリーダーでは引っ張れなくなってくる。コミュニケーション、モチベーションが重要になってくる。

◆ 第3世代:価値創造型。変化を読み、事業を創出せよ。新たなイノベーションを生み出す。

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第1世代:目標達成型マネジメントで問われるリーダーの資質

竹林氏が初めてプロジェクトマネージャーになった時、プロジェクトでは様々な問題が発生した。進捗が90%になってから先に進まない、システムの品質が安定しない、それをカバーするための残業の連続、成功させねばとの意識で何とか納入した後も問題が出てくるといった具合だ。
こういうマネジメントを繰り返してはいけないと危機感を持ちながら、“熱き思いと達成感”で、メンバーを引っ張っていった。

「リーダーに選ばれたなら、演じるしかない。メンバーと一緒に暗い顔をしていたら、このプロジェクトは大丈夫なのか、会社は大丈夫なのかと思われる」と思ったのだ。リーダーの資質として、「陽気で強気」であることが大切と考えている。

ただ、プロジェクトが大きくなっていくと、一人のリーダーの熱き思いだけではたちいかなくなってきた。ここでプロセス改革やコミュニケーションが重要になってくる。

第2世代:プロセス重視型マネジメントでの「リスク管理」

ここで、今回のテーマである「やる気」に関連する事例として、竹林氏が開発プロジェクトマネージャーを務めた、「パスネット」の開発プロジェクトでの取り組みを紹介する。

このプロジェクトは、期間は1年10ヶ月(1999年1月〜2000年10月)、テーマ数600、納入・改造機器台数約6,500台、数千人が関わるという大規模かつ複雑なプロジェクトである。

プロジェクトマネジメントで特に重点を置いた課題は、「プロジェクトマネジメント体制の構築」「マネジメントプロセスの充実」の2点だった。

後者「マネジメントプロセスの充実」の具体策として、このプロジェクトでは、1) スケジュール管理、2)課題管理、3)リスク管理、4)仕様変更管理、5)構成管理、6)品質管理の6つのマネジメントプロセスの実行に重点を置いた。これらのうち、「やる気」に関連する「3)リスク管理」について紹介したい。

竹林氏は、プロジェクトマネジメントで重要なことは、問題が大きくなる前に(具現化する前に)、対処すること(防火活動)と考えている。プロジェクトマネージャーが適切な防火活動を判断するには、現場で起きている問題やリスク(心配事)を的確に抽出することが必要であり、そのための仕組み(リスク管理)をプロジェクトに組み込んだ。

まず、リスクを効率的に抽出するために、「計画」「進捗」「顧客」「品質」など、重要なリスク要因を列記したプロジェクト専用のリスク管理シートを作成した。ここで特筆すべき点は、リスク管理シートの項目に「モラル・やる気・一体感」や「コミュニケーション」を取り入れたことである。

「モラル・やる気・一体感」は、"高い"、"やや高い"、"やや低い"、"低い"の4段階を評価した。「コミュニケーション」については、対「グループメンバー」「上位者(マネージャ)」「関連グループ」の3つの項目からなり,それぞれ"とれている(週3回以上)"、"やや少ない(週1階程度)"、"ほとんどなし(週1回未満)"の3段階で点数を記入することでコミュニケーションの量を管理していった。

すべての項目の数値はグループごとにグラフ化され、一目で状況がわかるようになっている。会議では、具体的な進捗管理と共にこのシートを見ることで、全体的に組織で何が起きているかが分かる仕組みだ。

プロジェクトでのコミュニケーション活動を重視したことで,現場で発生している課題をリーダーから担当者まで同じ思いで共有化することが可能となった。

やる気カーブによる、モチベーションの見える化

前述のリスク管理では、グループでのやる気を測ったが、メンバー一人一人のやる気(モチベーション)はどうなっているのかを知る必要があると考えた竹林氏は、「やる気カーブ」を導入した。縦軸にやる気度(0〜100)、横軸に時間をおいた「やる気カーブ」(下図参照)を用いて、メンバーのモチベーションの状態を知り、コミュニケーションをとっていった。

100 |
   |
や  |
る  |
気  |
度  |
   |
   |____________________________
 0 時間

竹林氏は、モチベーションのカーブは、ずっと高ければよいというものではないと考えている。上がったり、下がったりするのは当然であり、逆になぜ上がったり、下がったりするのか、自分に何が起こっているのかを見るのが大切である。自分の状態を分かっていないと、環境の変化に対応できず、突然会社に行きたくないという状況に陥ることもある。

このカーブを使ってメンバーと話すことで、相手がどんな時にモチベーションが高いのかを知り、一人一人が持っているパワーを上げていくことにつなげている。

これらのマネジメントプロセスを取り入れた「パスネット」プロジェクトは、QCDすべてにおいて成功を収めた。Q(市場品質)では、市場不具合の発生率は過去の類似プロジェクトとの比較で1/20、さらにC(開発工数)も計画時の5%減。D(納期)も、当初の予定通りに遅滞なく終了した。

本プロジェクトの成功要因を分析すると、「コミュニケーション」「動機付け」「リスクマネジメント」「組織・体制」など、コミュニケーションを重視した体制と仕組みを取り入れたことが、ヒヤリング結果から明らかになった。

第3世代:価値創造型マネジメントでの「心の見える化」

従来の第1、第2世代のプロジェクトマネジメントでは、やることは決まっていて、後はどうやるかというHowの部分が求められている。ところが、第3世代のマネジメントでは、「What」の部分、いかに変化を読み、新しい価値を生み出すために何をするかをメンバー全員で考えることが必要になってくる。

竹林氏の組織では、「What」を考えることが難しく、なかなか新規事業は立ち上がらないという状況が起きていた。組織全体のモチベーションも下がり、部下も何をしていいのかわからないという状態になり、竹林氏と部下の間のギャップが生じてきた。

そこで、竹林氏が考えたのが、「やる気カーブ」を進化させて、心の状態がどうなっているか、心も「見える化」しようということだった。
それがEQ(心の知能指数、Emotional Intelligence Quotient)である。これまでは、「感情はビジネスの邪魔」と考えられていたが、そうではなく、「感情は情報として扱い、感情を管理したり、利用するのは知的能力(=EQ)である」(※ 注1)というのが、EQの考え方である。

自分のEQと組織のEQ(部下の平均)を測り、どこにギャップがあるかを見ていった。竹林氏の場合、「気力充実度(精神的なエネルギーの強さ)」「達成動機(物事への取り組みの粘り強さとやる気)」「楽観性(ポジティブシンキング、割り切りの良さ)」などの数値が高く出た。(※注2)

ただ、これらが部下との間にギャップがあり、「部下がついてきていない」とEQコンサルタントから指摘を受ける。また、人の意見を聴くことはするが、結局は自分の好きなことをやっているといった課題が見えてきた。

EQを通じて、自身と部下とのギャップを知ることで、具体的にどのような行動をとればよいのかが分かってくる。竹林氏は、新しいプロジェクトに入る前には、EQを活用し、自分や部下の心の状態を「見える化」するようにしている。

※ 注1:EQ(Emotionally Intelligence Quotient)は、1990年に米国の心理学者ピーター・サロベイ博士(エール大学)とジョン・メイヤー博士(ニューハンプシャー大学)によって提唱された。

「EQとはスキルである。その内容は、感情を見つける、同定する=identifyができ、理解することができる。かつ自分でそれを管理でき、効果的に使うことができるということで、それをEQと呼んでいる。」『週刊東洋経済2005.4.30-5.7』より

※注2:EQは、下記の3つの知性で決まる。・自分で自分の状態が分かる「心内知性 (セルフコンセプト)」・他者に適切かつ効率的に働きかけることができる「対人関係知性(ソーシャルスキル)」・自分と他者の両者の状態を同時に認知できる「状況判断知性(モニタリング能力)」

イーキュージャパンのサイト「EQの人材能力開発領域」より下記サイトでは、3つの知性を構成する8つの能力、24の素養が紹介されている。
http://www.eqj.co.jp/corp/eq/element.html

現在、竹林氏は約400名の従業員を率いる経営者として、コミュニケーションとモチベーションを生むための仕組みづくりに取り組んでおり、下記はその取り組みの一部である。

・「ナチュラルコミュニケーション」〜65インチTVの常時接続 
勤務地が離れている事業所同士でも、気軽にコミュニケーションがとる。
・「勝負デスク」と名付けた机での経営会議や品質会議人事やアライアンス関連以外の話題は、すべてオープンな場所で話す。
・社長との座談会、ONEコインミーティングなど

これらの取り組みにより、クレームの早期発見や、部署や勤務地を超えたコミュニケーションにつながっている。

竹林氏の理念の一つは、「日本のエンジニアを元気にする」ことである。今回ご紹介したコミュニケーション及びモチベーションを高める取り組みは、この理念に基づくものであり、ベースには竹林氏の"メンバー一人一人の力を最大限に発揮してほしい"という想いがある。

プロジェクトを管理していく際には、「事業戦略の立案」「メンバーが本質的に持っている力の発揮」の2つを両輪とすることが大切と考えている。
やる気や心の「見える化」は、あくまでも現状を客観的に把握する手段である。これらを活用して、メンバーの話を聴くことで、不安を和らげたり、課題の早期発見や解決に結びついていく。
その積み重ねが結果的に、メンバー一人一人のやる気を高めることにつながっていっている。

以上、竹林氏のやる気を高めるプロジェクトマネジメント(第1〜第3世代)の取り組みについてご紹介しました。

"コミュニケーションのない組織にモチベーションは生まれない。モチベーションが低い組織からは、イノベーションが生まれない"との考えのもと、「リスク管理シート」や「やる気カーブ」など、コミュニケーション量を多くし、メンバー一人一人のやる気を高める取り組みが功を奏した事例です。

下記の問いをぜひ考えてみてください。

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Q1. 皆さんのプロジェクトでのコミュニケーションはどの位とれていますか?
3段階で考えるといかがでしょうか?
もし今よりもコミュニケーション量を増やすとしたら、どんなことができますか?

Q2. 自分の「やる気カーブ」はどんな時に高くなりますか?
また低くなりますか?
低い時から上がるきっかけになるものは何でしょうか?

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「やる気カーブ」、小田も書いてみたところ、マンネリ感を感じ始めると、やる気が下がる傾向にあることが分かりました。その場合、新しいことを始めたり、人に会うなど、新しい風を吹き込むことで回復します。

自分のモチベーションに影響するものを知ることで、自己管理に役立ちますので、ぜひお試しください。

参考:『JAVA PRESS』Vol.42(技術評論社)「The エンジニアコーチング〜第1回パスネット開発現場を支えたコーチングとは?」

以上、竹林氏のコミュニケーション及びモチベーションを高める取り組みを紹介してきました。今回の記事が、より生き生きと働くチームになるための一歩になると幸いです。

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▷ ITパーソンのためのキャリア開発
  – 1 マネジメントに関する勉強が足りない
  – 2 モチベーションをあげる
▷ ITエンジニアのスキルアップ「コミュニケーション力をあげる」
▷ ITエンジニアのキャリア開発のヒント
  – 1「主体的に動く」
  – 2「自己投資をしよう」
  – 3「コミュニケーションは出会いと経験から」
  – 4「自ら変化を起こす」
  – 5「求められている役割を考える」
  – 6「仕事の目的を考える」
  – 7「人間力を高めるには」
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